長年のフラッシュバックに変化がないと感じる時:『見えない進歩』に気づくヒント
長年のフラッシュバック、症状に変化を感じない時の付き合い方
フラッシュバックの症状と長く付き合っていらっしゃる方の中には、様々な対処法を試してみたものの、「症状の頻度や強さに大きな変化がない」と感じ、回復への道筋が見えずに停滞感や焦りを感じてしまうことがあるかもしれません。
フラッシュバックからの回復の道のりは、決して一直線ではありません。時には後戻りしているように感じたり、努力が報われないように思えたりすることもあるでしょう。この記事では、長年の悩みに寄り添いながら、もしあなたが今、「症状に変化がない」と感じている時に、回復への見方を変え、『見えない進歩』に気づくためのヒントをお伝えします。
なぜ「変化がない」と感じてしまうのか
フラッシュバックは、過去のつらい体験が鮮明な記憶として突然よみがえる現象です。これは脳が安全を守ろうとする自然な反応の一部でもありますが、長期間続くことで心身に大きな負担をかけます。
回復には時間がかかることが一般的であり、症状が波のように現れたり落ち着いたりすることもあります。そのため、「症状が完全に消失したか」「頻度が劇的に減ったか」といった目に見えやすい変化だけを回復の指標としていると、努力しているにも関わらず「変化がない」と感じてしまいやすくなります。
しかし、回復とは症状の軽減だけを指すものではありません。症状との付き合い方や、それに対する自身の反応、日常生活の中での変化など、様々な側面に目を向けることで、実は少しずつ前に進んでいることに気づけることがあります。
「見えない進歩」に気づくための視点
では、どのようにすれば「見えない進歩」に気づくことができるのでしょうか。回復を測るものさしを、少し広げてみましょう。
1. 症状そのものへの反応の変化
フラッシュバックが起きた時のあなたの内側の反応に、以前との違いはないでしょうか。
- フラッシュバックが起きても、以前より早く落ち着けるようになった
- 症状が現れた時の動揺や恐怖の度合いが、わずかでも和らいだ
- フラッシュバックが起きても、「これは過去の出来事だ」と、以前より少しだけ切り離して考えられるようになった
- 症状が現れた後に、以前ほど自分を責めなくなった
このように、症状の頻度や強さが同じように見えても、それに対するご自身の「慣れ」や「受け止め方」が変化していることがあります。これは、あなたが無意識のうちに症状への耐性をつけたり、心理的な距離感を学び始めている証拠かもしれません。
2. 対処法の『効果』の捉え方を変える
これまで様々な対処法を試されてきたことと思います。その「効果」をどのように捉えていたでしょうか。
- 対処法を行うことで、フラッシュバックの「時間」がわずかでも短くなった瞬間があった
- 特定の対処法が、「特定の状況」(例えば自宅にいる時など)では少し有効だった
- 対処法を試した後に、以前なら数時間引きずっていた感情が、少し早く収まるようになった
- 対処法を試そうと「行動できた」こと自体を、小さな成功と捉える
対処法は、フラッシュバックを「ゼロ」にする特効薬ではなく、つらい波を「乗り越える」ためのツールです。完璧な効果を期待するのではなく、「少しでも楽になる瞬間」や「行動できた自分」に焦点を当てることで、対処法の隠れた効果や、それを使えている自身の努力に気づけます。
3. 日常生活や自分自身の変化を観察する
フラッシュバックの悩みと並行して、日常生活やあなた自身に起きた変化にも目を向けてみましょう。
- フラッシュバックの合間に、以前より心身を休ませられる時間が増えた
- 不安を感じながらも、少しだけ外出する、人と会うなどの行動ができた
- 信頼できる人に、悩みを少し話すことができた
- フラッシュバック以外のことに意識を向けられる時間が増えた
- 自分自身を労わるための小さな習慣(例えば、温かい飲み物を飲む、好きな音楽を聴くなど)ができた
これらの変化は、フラッシュバックの症状に直接関係ないように見えるかもしれません。しかし、これらはあなたが自分自身を大切にし、生活の質を向上させようと努力している証拠です。心身の安定は、フラッシュバックの症状にも良い影響を与える可能性があります。これらの「見えない進歩」こそが、回復の土台を少しずつ固めているサインなのです。
停滞期を乗り越えるための工夫
もし今、「変化がない」と感じていても、悲観的になりすぎないことが大切です。
- 完璧を目指さない姿勢を再確認する: 回復に「ゴール」や「期限」はありません。今日一日を穏やかに過ごせた、それだけでも素晴らしいことです。
- 小さな行動を続ける: 大きな変化を目指すのではなく、これまで試した対処法の中で少しでも心身が楽になるものを、淡々と日常生活に取り入れてみましょう。続けること自体に意味があります。
- 過去の自分と比べすぎない: 過去の「良かった時期」や「つらかった時期」と比較しすぎず、「今の自分」に焦点を当てて、今日できること、今日感じられる小さな良い変化に目を向けてみましょう。
- 「今、ここ」に意識を向ける練習: フラッシュバックは過去に引き戻しますが、「今、ここ」の感覚(手や足が地面についている、呼吸している、周りの音など)に意識を向ける練習は、過去への没入から抜け出す助けになります。難しく考えず、数秒でも良いので試してみてください。
- 専門家への相談を改めて検討する: 長年の悩みであるからこそ、専門家の視点や助けが有効な場合があります。もし過去に相談経験があっても、別の専門家を訪ねてみたり、相談の形を変えてみたりすることも考えられます。敷居が高いと感じる場合は、まず情報収集から始めてみるのも良いでしょう。
まとめ
長年のフラッシュバックの悩みは深く、症状に大きな変化を感じられない時には、落胆したり希望を失いそうになったりすることもあるでしょう。
しかし、回復の道のりは多様であり、症状の表面的な変化だけでなく、それに対するご自身の反応、対処法の使い方、日常生活の小さな変化など、様々な側面に『見えない進歩』が隠されている可能性があります。
見えない進歩に気づくことで、停滞しているように感じられる時期でも、回復への希望を持ち続け、何よりも、長年つらい症状と向き合い、努力を続けているご自身を優しく労わっていただきたいと思います。そして、もし一人で抱えきれないと感じる時は、専門家への相談も、決して特別なことではなく、回復を後押しする大切な一歩となり得ることを覚えておいてください。