フラッシュバックを知る

フラッシュバックに揺さぶられる『感情』との向き合い方:長年の悩みに寄り添う新しい視点

Tags: フラッシュバック, 感情, 対処法, セルフケア, 専門家相談

長年のフラッシュバック、その『感情』にどう向き合うか

長年にわたりフラッシュバックの症状に悩まされている皆様にとって、その苦痛は単に過去の出来事が鮮明に蘇ることだけではないかもしれません。フラッシュバックに伴って押し寄せる、強い恐怖、不安、悲しみ、怒りといった『感情』もまた、日々の生活に大きな影響を与えていることと存じます。

これまでに、フラッシュバックを避ける、気を紛らわせる、安全な場所を見つけるなど、様々な対処法を試されてきたかもしれません。しかし、それでもなお感情の波に飲み込まれてしまう経験がおありの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この記事では、フラッシュバックという現象がなぜ強い感情を伴うのか、そのメカニズムに触れながら、感情そのものとの新しい向き合い方について考えてまいります。これまでの方法で効果を実感しにくかった方に向け、少しでも穏やかな日々を送るためのヒントを提供できれば幸いです。

フラッシュバックはなぜ強い感情を伴うのか? メカニズムの視点

フラッシュバックは、過去の記憶が現在の出来事のように鮮やかに再体験される現象です。しかし、これは単に映像や音だけが再生されるわけではありません。当時の感覚、そして何よりも『感情』も同時に、時にはより強く、再現されるのが特徴です。

脳の仕組みから見ると、トラウマ体験などの強いストレス下では、記憶を整理・統合する機能がうまく働かず、出来事の断片(映像、音、感覚、感情)がバラバラのまま脳に保存されることがあります。特に、感情と深く関わる脳の部位である扁桃体は、危険を察知すると強く活性化し、その時の出来事を「危険なもの」として情動的なサインとともに記憶に固定します。

フラッシュバックが起きる際、この扁桃体が再び活性化し、保存された記憶の断片と結びついた強い感情が、まるで今起きていることのように呼び起こされると考えられています。このため、単に思考を別のことに向けたり、物理的にその場を離れたりするだけでは、脳の深い部分で再生されている感情の反応までを完全に抑えることは難しい場合があります。フラッシュバックに伴う感情は、過去の出来事がまだ心の中で「未処理」な状態であることを示唆しているのかもしれません。

『感情そのもの』との新しい向き合い方:感じる練習

フラッシュバックに伴う強い感情に直面したとき、多くの人はその感情を避けたり、感じないように蓋をしたりしようとします。しかし、感情を「敵」として排除しようとすることは、かえってその感情を強化したり、別の形で現れさせたりすることにも繋がりかねません。

ここで提案したいのは、「感情を排除する」のではなく、「安全な場所で、コントロールできる範囲で、少しずつ感情を感じる練習をする」という新しい視点です。感情は、私たちに何かを伝えようとしている「情報」と捉えることもできます。その情報に、安全な環境で少しずつ耳を傾ける練習をすることで、感情の波に飲み込まれず、その感情と共に今ここにいる自分を保つ力が育まれていきます。

具体的な方法として、以下のようなセルフケアを取り入れてみてはいかがでしょうか。これらは感情を完全に消し去るものではなく、感情の波を観察し、乗り越えるための『ツール』として活用するものです。

これらの方法は、一度試しただけですぐに効果が出るものではないかもしれません。しかし、繰り返し行うことで、感情の波に揺さぶられながらも、自分自身の核を保つ力が少しずつ育まれていくことが期待できます。すぐに効果を実感できなくても、試してみたこと自体が小さな成功体験です。焦らず、ご自身のペースで続けてみてください。

長期的な視点と専門家への相談について

今回ご紹介した感情との向き合い方は、日々のセルフケアとして有効なものですが、長年の深い悩みに対しては、専門家のサポートが有効な場合が多くあります。専門家(精神科医や臨床心理士など)は、安全な環境を提供しながら、感情のメカニズムについてより深く理解することを助けたり、過去の出来事によって心に留め置かれた感情に、安全な方法で向き合うサポートを行ったりすることができます。

専門家への相談は、敷居が高いと感じられるかもしれません。しかし、専門家は決して特別な人だけが頼るものではありません。ご自身の抱える苦痛を和らげ、より良い状態を目指すための一つの選択肢として、情報収集から始めてみることも良いでしょう。どのような専門家がいるのか、どのようなサポートを受けられるのかを知るだけでも、次のステップが見えてくることがあります。

まとめにかえて

フラッシュバックに伴う強い感情との向き合いは、容易なことではありません。しかし、感情を避け続けるのではなく、安全な方法で少しずつ感じ、理解しようと試みることで、その波に飲み込まれずにいられる力が育まれます。

今回ご紹介したグラウンディングや呼吸法、安全な場所のイメージといったセルフケアは、そのための具体的なツールとなります。すぐに大きな変化がなくても、日々の小さな実践を続けることが大切です。

そして、もし一人での対処に限界を感じたり、より深いレベルでの癒しを求めたりする場合は、専門家のサポートを検討することも、ご自身の心のためにできる大切な一歩です。

長年の悩みに寄り添い、フラッシュバックと共に現れる感情の波を少しでも穏やかに乗りこなしていくための、この記事が皆様にとって新たな希望となれば幸いです。