フラッシュバックが体に残す『緊張』:自分でできる穏やかな和らげ方
フラッシュバックが体に残す『緊張』:自分でできる穏やかな和らげ方
長年フラッシュバックに悩まされていると、つらい記憶が突然鮮明に蘇ってくることだけでなく、心身の様々な不調を感じることがあるかもしれません。特に、体に慢性的な緊張やこわばりを感じるという経験は、多くのフラッシュバック経験者が共通して抱える悩みの一つと言われています。
これまで色々な対処法を試してみたけれど、体のつらい感覚がなかなか和らがないと感じている方もいらっしゃるかもしれません。フラッシュバックは、心だけでなく体にも深く影響を与えるものであり、その体の反応に気づき、適切にケアすることが、穏やかさを取り戻すための一歩となることがあります。
この記事では、なぜフラッシュバックが体に緊張を引き起こすのか、そのメカニズムを改めて確認し、そしてご自宅で、ご自身のペースで無理なく実践できる、体の緊張を穏やかに和らげるための具体的なセルフケアの方法についてご紹介します。また、一人で抱え込まず、専門家へ相談することも視野に入れることの重要性についても触れていきます。
フラッシュバックが体に緊張を引き起こすメカニズム
過去のつらい出来事がフラッシュバックとして蘇る時、私たちの脳はまるでその出来事が「今、現在」起きているかのように反応することがあります。これは、脳が過去の危険を感知し、再び身を守ろうとする自然な防衛反応の一部です。
この反応に伴い、自律神経系、特に活動や緊張に関わる交感神経が過剰に活性化することが知られています。体は危険に備え、「闘争・逃走・フリーズ(固まる)」といった原始的な反応の準備を始めます。
- 心拍数が増える
- 呼吸が浅く速くなる
- 筋肉がこわばる
- 胃腸の働きが滞る
- 冷や汗をかく
このような体の反応は、一時的に危険を乗り切るためには有効ですが、フラッシュバックが繰り返し起きたり、長期間にわたって悩まされたりする場合、体が慢性的に緊張した状態になってしまうことがあります。この慢性の緊張は、肩や首のこり、腰痛、頭痛、疲労感、不眠、胃腸の不調など、様々な形で現れることがあります。
つまり、フラッシュバックの苦しみは、単に「つらい記憶が蘇る」という心の現象だけでなく、体にも具体的な影響を与え、「こわばり」や「緊張」といった形で日常的に現れる場合があるのです。そして、多くの対処法が心の側面に焦点を当てがちであるため、体のつらい感覚が置き去りになってしまうことがあるかもしれません。
体の緊張を穏やかに和らげるためのセルフケア
体の緊張を和らげることは、フラッシュバックそのものを直接的に消し去るものではありませんが、心身全体に穏やかさをもたらし、フラッシュバックが起きた時の体の反応を和らげる助けとなる可能性があります。ご自宅で無理なく試せる、いくつかのセルフケアの方法をご紹介します。
1. 呼吸に意識を向ける
フラッシュバックに伴う体の緊張は、しばしば呼吸を浅く速くします。意識的に呼吸を深くゆっくりすることで、過剰に活性化した交感神経の働きを鎮め、副交感神経(リラックスに関わる神経)を優位にすることができます。
- 椅子に座るか、横になります。体の力を抜き、楽な姿勢をとります。
- お腹に手を当ててみましょう。
- 鼻から息を吸い込み、お腹が膨らむのを感じます。ゆっくりと、数秒かけて吸い込みます。
- 口から、吸うときよりも時間をかけて、ゆっくりと細く長く息を吐き出します。お腹がへこむのを感じましょう。
- これを数回繰り返します。
フラッシュバックが起きている最中は難しい場合もありますが、普段から練習しておくことで、いざという時に少しでも落ち着きを取り戻す助けになる可能性があります。
2. 今、ここの体の感覚に意識を向ける
フラッシュバックは過去に意識が引き戻される現象ですが、「今、ここ」にある体の感覚に意識を向けることは、過去から現在に意識を戻す助けになります。これは「グラウンディング」と呼ばれる技法の一つでもあります。
- 座っている場合は、椅子にお尻が触れている感覚や、足の裏が床についている感覚に意識を向けてみましょう。
- 立っている場合は、足の裏が地面についている感覚、重力を感じている体の部分に意識を向けます。
- 手のひらで触れるものの感触(衣服、椅子の肘掛けなど)に注意を向けてみることも有効です。
- 「私は今、ここに座っている(立っている)。体は椅子(地面)に支えられている」と心の中で繰り返してみるのも良いでしょう。
難しいことを考える必要はありません。ただ、今の体の感覚を「感じる」ことに焦点を当てます。これにより、フラッシュバックの渦から少し距離を置くことができるかもしれません。
3. 体を優しく動かす、温める
長年の緊張は、特定の筋肉を慢性的にこわばらせている可能性があります。無理のない範囲で体を優しく動かしたり、温めたりすることは、その緊張を和らげる助けになります。
- 軽いストレッチ: 肩を回す、首をゆっくりと左右に傾ける、深呼吸をしながら背伸びをするなど、痛みを感じない範囲で、こわばりやすい部分を優しく伸ばしてみましょう。
- 温める: 湯船にゆっくり浸かる、蒸しタオルや温湿布を肩や首に当てる、温かい飲み物を飲むなども、体の緊張を和らげる効果が期待できます。
- 散歩や軽い運動: 無理のない範囲でのウォーキングや軽い体操は、全身の血行を促進し、体のこわばりを和らげるのに役立ちます。
これらの方法は、即効性よりも、継続することで少しずつ体の状態を良い方向へ導いていくものです。毎日の習慣として、ご自身の体と対話しながら取り入れてみてください。
効果を感じにくい場合や、より深いケアのために
ご紹介したセルフケアは、ご自身でできる穏やかな方法ですが、長年の体の緊張が強い場合や、これらの方法を試してもなかなか効果を感じられない場合もあるかもしれません。そのような時は、一人で抱え込まず、専門家のサポートを検討することも大切です。
フラッシュバックやトラウマケアに詳しい心理療法士やカウンセラーの中には、「身体指向心理療法」と呼ばれる、体の感覚や反応に焦点を当てたアプローチを行う専門家もいます。ソマティック・エクスペリエンス(SE)や、体の感覚に注意を向けるマインドフルネスを応用した手法など、心と体の両面からアプローチすることで、長年の体の緊張をより深く、安全に解放していく助けとなることがあります。
専門家への相談は敷居が高いと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、体のつらい感覚について具体的に話を聞いてもらえるだけでも、安心できる場合があります。対面での相談だけでなく、最近ではオンラインでのカウンセリングも利用できるようになってきています。ご自身の話しやすい方法、アクセスしやすい方法を探してみるのも良いでしょう。
大切なのは、「完璧に治さなければ」と気負うのではなく、今の自分の状態を理解し、無理のない範囲でご自身を労わる方法を取り入れていくことです。体の緊張を和らげるケアは、フラッシュバックと共に生きる中で、少しでも穏やかな時間や安心できる瞬間を増やすための、大切な一歩となるでしょう。
まとめ
フラッシュバックは、心のつらさだけでなく、体に慢性的な緊張やこわばりをもたらすことがあります。これは過去の出来事に対する体の自然な反応であり、ご自身を責める必要は一切ありません。
体の緊張を和らげるためには、深くゆっくりとした呼吸、今ここの体の感覚への意識、体を優しく動かしたり温めたりすることなど、日常生活で無理なく取り入れられるセルフケアが有効です。これらの方法は、継続することで心身全体の穏やかさを育む助けとなります。
ご自身でのケアに限界を感じる場合や、より専門的なアプローチを試してみたい場合は、身体指向心理療法など、体の反応に詳しい専門家への相談も有効な選択肢の一つです。一人で抱え込まず、適切なサポートを得ることも大切です。
ご自身の体に優しく寄り添い、無理のないペースでケアを続けることが、長年のフラッシュバックに伴う体のつらい感覚を少しずつ和らげ、穏やかな日常を取り戻すための一歩となるでしょう。