フラッシュバックを知る

長年のフラッシュバックで『失われた自信』を少しずつ取り戻すためのヒント

Tags: フラッシュバック, 自己肯定感, 自信, セルフケア, 回復

長年のフラッシュバックがもたらす『見えない影響』:自己評価の低下

フラッシュバックは、過去のつらい記憶が鮮明に蘇るという形で現れる症状ですが、その影響は記憶が蘇る瞬間だけにとどまりません。長年にわたりフラッシュバックに悩まされている方の中には、ご自身のことを「もう以前のようにはなれないのではないか」「自分には価値がないのではないか」と否定的に捉えてしまったり、自信を失ってしまったりすることがあるかもしれません。

フラッシュバックは、過去の出来事がまるで「今の自分」に起こっているかのように感じさせるため、その出来事に関連する感情や自己否定的な思いが、現在の自己評価に強く影響を与えてしまうことがあります。また、「なぜ自分だけがこんな症状に悩むのか」「うまく対処できないのは自分が弱いからだ」などと、ご自身を責めてしまい、それがさらに自信を失うことにつながる悪循環に陥ることも少なくありません。

これまで様々な対処法を試しても、フラッシュバックの症状そのものには変化があっても、心の中に根付いてしまったご自身の「自信のなさ」や「自己評価の低さ」にはなかなかアプローチできていないと感じている方もいらっしゃるかもしれません。この記事では、フラッシュバックによって傷ついたご自身の「自信」や「自己評価」を、日々の暮らしの中で少しずつ、穏やかに回復させていくためのいくつかのヒントをご紹介します。

なぜフラッシュバックは自己評価を傷つけるのか

フラッシュバックは、過去の出来事の記憶が、感情や身体感覚を伴って現在に強く割り込んでくる現象です。このとき、過去の出来事における「無力感」「恐怖」「恥」といった感情が、現在の自分に結びついて感じられてしまいます。

例えば、過去に何か失敗や困難な経験があり、それがフラッシュバックとして蘇るたびに、「あの時の自分は何もできなかった」「だから今の自分も駄目だ」といった思考が頭をよぎるかもしれません。また、フラッシュバック自体が予期せず起こること、そしてそれをコントロールできないように感じることが、「自分は状況に対処できない弱い人間だ」という感覚を強化してしまうこともあります。

このように、フラッシュバックは過去の出来事だけでなく、その出来事を通して形成されたご自身の否定的なセルフイメージを、繰り返し「今ここ」に呼び起こしてしまう性質を持っています。これが、長年にわたる自己評価の低下や自信の喪失につながるメカニズムの一つと考えられます。

失われた自信を穏やかに育むための小さなヒント

フラッシュバックによる自己評価の低下は、一朝一夕に改善するものではありません。しかし、日々の小さな積み重ねや、ご自身への向き合い方を少し変えることで、傷ついた自信を穏やかに回復させていくことは可能です。

1. 日常の小さな「できたこと」に目を向ける練習

フラッシュバックに悩んでいると、つらい出来事やうまくいかないことに意識が向きがちです。そうではなく、意図的に、日常の中の「できたこと」「うまくいったこと」に目を向ける練習をしてみましょう。

例えば、朝起きてカーテンを開けられた、一杯のコーヒーを美味しく飲めた、洗濯物をたたんだ、誰かに「ありがとう」と伝えられた、など、どんなに些細なことでも構いません。「当たり前」と感じることも、フラッシュバックを抱えながら行うのは決して簡単なことではない場合があります。その一つ一つを「できたこと」として認識し、心の中で静かに「よし」「大丈夫」といった肯定的な言葉をかけてみてください。小さな成功体験を積み重ねることで、「自分にもできることがある」という感覚を少しずつ育むことができます。

2. 「過去の自分」と「現在の自分」を区別する

フラッシュバックは過去の出来事を現在に引き寄せますが、フラッシュバックを見ている「今の自分」は、過去の出来事を経験した「あの時の自分」とは異なると認識することが大切です。過去の出来事は確かに起こりましたが、それは「過去のこと」です。そして、その出来事を経験した「あの時の自分」は、その時の状況で精一杯生きていました。

フラッシュバックが起きたとき、「これは過去の記憶だ」「あの時の自分はつらかっただろう」「でも今の自分は、あの時とは違う場所にいる」といった形で、意識的に「過去」と「現在」を区別する言葉を心の中で唱えてみましょう。これは、過去の出来事によって現在の自己像が塗りつぶされてしまうことを防ぎ、「自分は過去の出来事そのものではない」という感覚を取り戻す助けとなります。

3. 自分自身への優しい言葉がけを練習する(セルフコンパッション)

私たちは、失敗したり、つらい状況にあったりする友人に対しては優しい言葉をかけることができます。しかし、自分自身に対しては、厳しく批判的な言葉を投げかけてしまうことがあります。特にフラッシュバックに苦しんでいるときには、「どうして自分はこんなに弱いんだ」「また駄目だった」とご自身を責めてしまいがちです。

そこで、「もし大切な友人が、今の自分と同じ状況で悩んでいたら、自分ならどんな言葉をかけるだろうか」と考えてみてください。そして、その言葉をそのままご自身にかけてあげる練習をしましょう。「つらいね、よく頑張っているね」「大丈夫だよ、ゆっくり休んでね」といった、労いや慰め、励ましの言葉です。ご自身への優しい言葉がけ(セルフコンパッション)は、傷ついた心を癒やし、ご自身の価値を肯定的に捉え直すための大切なステップです。

4. 「完璧でなくても大丈夫」という許可を出す

フラッシュバックを「完全に克服しなければならないもの」「コントロールできないといけないもの」と捉えすぎると、うまくいかなかった時に大きな自己否定につながりやすくなります。しかし、フラッシュバックは複雑なメカニズムによって起こるものであり、症状の波があることも自然なことです。

「フラッシュバックが完全に起きなくなること」や「どんな時も冷静に対処できること」を目指すのではなく、「フラッシュバックが起きても、少しずつ回復できるようになること」「完璧にできなくても、一生懸命対処しようとしている自分を認めること」に焦点を当ててみましょう。「完璧でなくても大丈夫」「今の自分で十分だ」とご自身に許可を出すことで、肩の力が抜け、自己否定感を和らげることができます。

5. 安全な関係性を大切にする

自分が安心して心を開ける人、自分の話を否定せずに聞いてくれる人との繋がりは、傷ついた自己評価を回復させる上で非常に大きな支えとなります。安全な関係性の中では、ありのままの自分でいられる感覚、受け入れられている感覚を得やすく、それが「自分には価値がある」という感覚を取り戻す助けとなるからです。

もし身近にそのような方がいれば、無理のない範囲で対話を試みたり、一緒に穏やかな時間を過ごしたりすることを大切にしてください。すぐに難しい場合は、専門家とのカウンセリングや、同じような経験を持つ方々が集まる自助グループなども、安全な関係性を築くための一つの選択肢となるかもしれません。

まとめ:穏やかな回復への道は、小さな一歩から

長年のフラッシュバックによって失われた自己評価や自信を回復させる道のりは、焦らず、ご自身のペースで進むことが大切です。今回ご紹介したヒントは、どれもすぐに劇的な変化をもたらすものではないかもしれませんが、日々の暮らしの中で意識的に取り入れていただくことで、心の中に少しずつ肯定的な感覚を育む手助けとなるはずです。

「できたこと」に目を向け、過去と現在を区別し、ご自身に優しく語りかけ、「完璧でなくても大丈夫」と許可を出し、安全な関係性を大切にする。これらの小さな一歩が、傷ついた自信を癒やし、ご自身の価値を穏やかに再発見することにつながることを願っています。

もし、これらの方法を試してもつらさが続いたり、症状が悪化したりする場合は、一人で抱え込まず、専門家への相談も検討してみてください。ご自身の心身を労わることを最優先に、穏やかな日常を取り戻していくための一歩を踏み出していきましょう。