フラッシュバックの苦しさを和らげる:『つらい記憶への向き合い方』を穏やかに変えるヒント
フラッシュバックの症状は、長年にわたり多くの方を苦しませています。様々な対処法を試されても、なかなか効果を実感できないといったお悩みをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。フラッシュバックによる苦しみは、単に過去のつらい記憶が鮮明に蘇ることだけでなく、その記憶に対して現在の自分がどのように考え、どのように感じているかにも影響されることがあります。
この記事では、フラッシュバックによって蘇る『つらい記憶』そのものに加え、その記憶に対する現在のあなたの『向き合い方』に焦点を当てて考えます。記憶への向き合い方を穏やかに変えることで、フラッシュバックによる苦しさを少しでも和らげるためのヒントをご紹介します。
フラッシュバックと『記憶への現在の解釈』の関係
フラッシュバックは、過去の出来事がまるで今、ここで起きているかのように感じられる鮮明な感覚を伴うものです。そのつらさは計り知れないものがあり、その場でできる対処法を試すことも非常に重要です。
しかし、フラッシュバックが去った後も続く苦しみや、フラッシュバックが起きることへの強い恐怖は、過去の出来事そのものだけでなく、現在のあなたがその出来事や、フラッシュバックする自分自身についてどう考えているかに影響されている場合があります。
たとえば、「あの時の自分がこうしていれば」「どうしてこんなことになってしまったのだろう」「自分は弱い人間だ」「いつまでも過去に囚われている」といった、過去の出来事や自分自身に対する否定的な考えや自己批判は、フラッシュバックの苦しさを増幅させることがあります。私たちは、出来事そのものよりも、それに対する自分の『解釈』や『評価』によって、感情や感じ方が大きく変わることがあります。これはフラッシュバックの苦痛にも当てはまる考え方です。
『苦しさを増幅させる考え方』に気づく練習
では、どのような『現在の考え方』が苦しさを増幅させているのかに気づくには、どうすれば良いのでしょうか。
まず試せるのは、自分の内面に穏やかに注意を向ける練習です。フラッシュバックが起きた後や、フラッシュバックについて考えたり話したりした時に、頭の中でどのような考えが浮かんでいるか、どんな言葉が心に響いているかを、批判せずただ観察してみます。
- 「またこんなことを考えてしまう」
- 「どうして乗り越えられないのだろう」
- 「他の人はもっと強いのに」
- 「この苦しみは一生続くのではないか」
このような考えに気づくことは、決して自分を責めるためではありません。ただ、「ああ、自分は今、こう考えているんだな」と認識することが第一歩です。これらの考えは、長年の苦しみの中で自然と生まれてきたものかもしれません。その背景には、自分を守ろうとする気持ちや、どうにか現状を変えたいという願いがあるのかもしれません。
『記憶への向き合い方』を穏やかに変えるヒント
苦しさを増幅させる考え方に気づいたとしても、それらの考えをすぐに「変えよう」「なくそう」とすることは、多くの場合、かえって苦痛を伴います。過去のつらい記憶そのものを消し去ることもできませんし、それを無理に忘れようとすることも現実的ではありません。
ここで大切なのは、記憶そのものを変えるのではなく、『記憶に対する現在の自分の向き合い方』を穏やかに変えていくという視点です。具体的なヒントをいくつかご紹介します。
1. 思考と自分を同一視しない
頭に浮かぶ考えは、あくまで「考え」であり、「自分自身」や「真実の全て」とは異なる場合がある、という視点を持つことです。「自分は弱い人間だ」という考えが浮かんだとしても、「私は弱い人間だ」と決めつけるのではなく、「『自分は弱い人間だ』という考えが頭に浮かんでいるな」と、一歩引いて観察する練習です。雲が空を流れていくように、考えもまた一時的なものだと捉えてみます。
2. 過去の出来事に対する『現在の自分』の立ち位置を意識する
フラッシュバックは過去の出来事を現在に引き戻しますが、今のあなたは過去の時点にいるあなたではありません。あなたは今、現在の時間、安全な場所にいます。フラッシュバックが起きた時、または過去について考える時に、物理的に安全な場所にいること、そして過去の出来事と現在の自分は異なる存在であることを、意識的に自分に言い聞かせてみる練習です。
3. 自己批判を和らげ、自分に優しくする
つらい記憶やフラッシュバックする自分を責めるのではなく、困難な経験を乗り越えてきた自分自身に寄り添うことを意識します。もし親しい友人が同じ経験をしていたら、あなたはどのような言葉をかけるでしょうか。おそらく、その友人を責めるのではなく、その苦労をねぎらい、優しく励ますのではないでしょうか。自分自身にも、同じように優しく接することを心がけます。「つらい経験をした自分は、よく頑張っている」と、自分を労わる言葉をかけてみてください。
4. 価値観に基づいた行動に焦点を当てる
フラッシュバックやそれに伴う苦痛があっても、あなたの人生の全てがそれで決まるわけではありません。あなたが大切にしていること(例えば、家族と過ごす時間、趣味、学び、誰かの役に立つことなど)は何でしょうか。その価値観に沿った行動を、フラッシュバックの有無にかかわらず、可能な範囲で少しずつでも行ってみることを検討してください。これは、苦しみがある中でも、自分の望む方向へ進むことができる、という感覚を育む助けとなります。記憶そのものを変えるのではなく、記憶との「関係性」を変えるアプローチの一つです。
焦らず、小さな変化に目を向ける
これらのヒントは、すぐに劇的な効果をもたらすものではないかもしれません。長年染み付いた考え方や向き合い方をすぐに変えることは難しいものです。大切なのは、完璧を目指すのではなく、焦らず、穏やかに、少しずつ試してみることです。
今日、頭に浮かんだ批判的な考えに一つだけ気づけた、昨日よりも少しだけ自分に優しい言葉をかけられた、といった小さな変化に目を向けて、それを認めてあげてください。その小さな積み重ねが、記憶への向き合い方を穏やかに変え、結果としてフラッシュバックによる苦しさを和らげることにつながっていく可能性があります。
まとめ
フラッシュバックの苦しみは、つらい記憶そのものだけでなく、その記憶に対する現在の自分の考え方や向き合い方によって増幅される場合があります。頭に浮かぶ『苦しさを増幅させる考え方』に気づき、それを無理に変えようとするのではなく、思考と自分を同一視しない、現在の自分の立ち位置を意識する、自分に優しくする、価値観に基づいた行動に焦点を当てる、といった方法を通じて、記憶への向き合い方を穏やかに変えていくことが、苦痛の軽減につながる可能性があります。
これらのヒントは、あなたがご自身で試せることの一部です。もし、長年の苦痛が続き、ご自身だけでの対処が難しいと感じる場合は、専門家への相談も有効な選択肢となります。専門家は、あなたの状況に合わせて、より具体的なサポートや治療法(心理療法など)を提案してくれるでしょう。ご自身のペースで、安心できる方法を選んでみてください。そして何よりも、長年の困難な経験を乗り越えてきたご自身を、どうか大切に労わってあげてください。