フラッシュバックを知る

『良い時と悪い時』がある長年のフラッシュバック:『波』を理解し穏やかに過ごすヒント

Tags: フラッシュバック, 症状の波, 対処法, 長期的な視点, セルフケア, 専門家相談

長年にわたりフラッシュバックの症状と向き合ってこられた皆様、日々の生活の中で「良い時」と「悪い時」の波を感じていらっしゃるのではないでしょうか。一時的に症状が落ち着く時もあれば、突然強いフラッシュバックに見舞われる時もあるかもしれません。様々な対処法を試されても、この症状の波に振り回されているように感じ、どうすれば良いのか分からなくなってしまうこともあるかと存じます。

この記事では、フラッシュバックの症状に波があるのはなぜなのかを理解し、良い時も悪い時も、少しでも穏やかに過ごすための具体的なヒントをお伝えいたします。

フラッシュバックの症状に「波」があるのはなぜか

まず、フラッシュバックの症状に波があることは、決して珍しいことではありません。これは、フラッシュバックが心や脳の特定の状態と深く関わっているためです。私たちの心や体は、常に一定の状態を保っているわけではなく、様々な要因によって日々変化しています。

症状の波に影響を与える主な要因には、以下のようなものが考えられます。

私たちの脳は、危険を察知すると自動的に警戒態勢に入る「扁桃体」と、思考や感情をコントロールする「前頭前野」など、複数の部位が連携して働いています。過去のつらい経験がフラッシュバックとして現れる時、この扁桃体が過剰に反応し、前頭前野の働きが一時的に弱まることがあります。心身のコンディションなどが整わない時は、この脳のバランスが崩れやすく、フラッシュバックの波につながる可能性があると考えられています。

このように、症状に波があるのは、心身や脳が周囲の環境や内部の変化に反応している自然な結果とも言えます。波があること自体を「うまくいかない」と捉えるのではなく、心身の状態を知る手がかりとして理解することが、波との新しい向き合い方への第一歩となります。

『良い時』にできること:波に備える準備

フラッシュバックの症状が落ち着いている「良い時」は、心身が比較的安定している貴重な時間です。この時間を単に症状がない休息期間として過ごすだけでなく、次の波に備えるための準備期間として意識的に活用することが有効です。

  1. 心地よい状態を意識的に蓄積する: 症状が落ち着いている時は、心が穏やかで体に力が入っていない状態であることが多いものです。このような「良い時」の感覚を意識的に感じ、心に留めておく練習をしてみましょう。例えば、温かい飲み物を飲む時の安らぎ、好きな音楽を聴く時の心地よさ、穏やかな景色を見た時の感覚など、五感を通して感じる安心感を大切にします。これは、フラッシュバックが起きた時に、心身の安定を取り戻すための「心の引き出し」を増やすことにつながります。

  2. 「安心できる場所」や「落ち着く方法」を再確認・練習する: フラッシュバックが起きた時、心の中に避難できる「安全な場所」のイメージを持つことや、体を落ち着かせる具体的な方法(呼吸法、グラウンディングなど)は非常に役立ちます。良い時にこれらの方法を改めて確認したり、実際に練習したりすることで、いざという時にスムーズに実行できるようになります。

  3. 健康的な習慣を維持・強化する: バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠など、基本的な生活習慣を整えることは、心身の安定を保つ上で非常に重要です。良い時は、これらの習慣を継続し、さらに心身を労わるセルフケア(例:ゆっくり湯船に浸かる、軽いストレッチをするなど)を取り入れる良い機会です。

  4. 専門家との連携を検討する: もし現在専門家のサポートを受けている場合、良い時の状態や、波が落ち着くために効果があったことを担当の方と共有してみましょう。また、今は相談していないという場合でも、良い時にこそ、今後波が大きくなった時のために専門家への相談を検討する準備(情報収集など)を始めるのも良いかもしれません。オンラインカウンセリングなど、自宅から相談できる方法もあります。

「良い時」にしっかりと心身を養い、来るべき波に備える準備をすることで、波が来た時の衝撃を和らげ、対処する力を高めることができます。

『悪い時』にできること:波を乗り越えるヒント

フラッシュバックの症状が強く出る「悪い時」は、心身ともに非常につらい状態かと存じます。このような時こそ、自分を責めたり、一人で抱え込んだりせず、心身を最優先に労わることが大切です。

  1. その瞬間の応急処置を行う: フラッシュバックが起きた直後は、安全な場所に移動したり、体を落ち着かせるための具体的な方法(グラウンディング、呼吸法など)を試したりすることが有効です。これらの方法は、過去の記憶にとらわれている意識を「今ここ」に戻す助けになります。

  2. 自分に優しく、休息を優先する: 症状が悪化するのは、心身が疲弊していたり、強いストレスに反応していたりするサインかもしれません。このような時は、無理に普段通りの活動を続けようとせず、可能な限り休息を優先しましょう。「症状が出ているのは自分が弱いからだ」などと自分を責める必要は一切ありません。これは心身が必要なケアを求めている状態です。

  3. 「これは一時的な波である」と心に留める: つらい波の中にいる時は、この状態が永遠に続くように感じられるかもしれませんが、実際にはフラッシュバックの波は必ず去るものです。今感じているつらさや不安は、一時的なものであることを繰り返し自分に言い聞かせることで、少しずつ落ち着きを取り戻せる場合があります。

  4. 助けを求めることをためらわない: 信頼できる家族や友人、あるいは専門家(医師、カウンセラーなど)に助けを求めることは、決して恥ずかしいことではありません。つらい気持ちや状況を話すだけでも、心が軽くなることがあります。また、専門家は、その時の状態に合わせた具体的な対処法やサポートを提供してくれます。

「悪い時」は、耐え忍ぶ時間ではなく、心身の回復を最優先にする時間です。自分に優しく、必要な助けを求めることを忘れないでください。

長期的な視点:波とうまく付き合い穏やかさを育む

長年のフラッシュバックと向き合う中で、症状の波が完全に消えることを目標にするのは、時に現実的ではなく、かえって苦しみにつながることがあります。大切なのは、波があることを受け入れ、その波にうまく乗りながら、日々の生活の中で穏やかな時間を増やしていくという長期的な視点を持つことです。

フラッシュバックの波は、長年の悩みであるからこそ、一朝一夕にコントロールできるものではありません。良い時も悪い時も、自分自身の心身の状態を丁寧に観察し、必要なケアを続けることが、穏やかな日常を育む確実な一歩となります。

まとめ

長年のフラッシュバックに伴う症状の波は、多くの方が経験されるものです。この波は、心身のコンディションや環境、ストレスなど様々な要因によって引き起こされますが、波があること自体がおかしいわけではありません。

大切なのは、波の存在を理解し、良い時は次の波に備える準備を行い、悪い時は自分を責めずに心身の回復を最優先にすることです。完璧な克服を目指すのではなく、波とうまく付き合いながら、日々の生活の中で穏やかな時間を少しずつ増やしていくという長期的な視点が、心の負担を和らげます。

もし、一人でこの波に対処することに難しさを感じていらっしゃる場合は、専門家(医師やカウンセラー)への相談も有効な選択肢です。オンライン相談なども活用しながら、ご自身に合った方法でサポートを得ることを検討されてみてください。

長年の経験から培われた皆様の強さと、ここでご紹介したヒントが、波のある日々の中でも穏やかさを育む助けとなれば幸いです。ご自身のペースで、一歩ずつ進んでいきましょう。