フラッシュバックを知る

フラッシュバックの『予兆』に気づく練習：穏やかに波に備えるヒント

長年フラッシュバックの症状に悩まされていると、突然訪れる波にただ耐えるしかないと感じることがあるかもしれません。様々な対処法を試しても、なかなか効果を実感できず、「いつ、あのつらい感覚が襲ってくるのだろう」という不安を抱えながら日々を過ごしている方もいらっしゃると思います。

この記事では、フラッシュバックが始まる前の「予兆」に気づくことに焦点を当てて解説します。予兆に気づく練習をすることで、波が大きくなる前に心構えをしたり、自分自身を落ち着かせるための準備をしたりすることが可能になります。これは、フラッシュバックの波に翻弄されるのではなく、主体的に向き合うための一歩となるかもしれません。

フラッシュバックの『予兆』とは何か

フラッシュバックは突然起こるように感じられますが、実際には心身に何らかの小さなサイン、つまり「予兆」が現れていることがあります。これは、過去のつらい記憶に関連する情報に脳が無意識に反応し始めている状態とも言えます。

「トリガー」がフラッシュバックを引き起こす「きっかけ」（特定の場所、音、匂い、状況など）であるのに対し、「予兆」はフラッシュバックが本格的に始まる「直前の心身の変化」を指します。人によって現れる予兆は異なりますが、いくつかの一般的な例を以下に挙げます。

• 身体的な変化:

  • 心臓がドキドキする、脈が速くなる
  • 息苦しさ、呼吸が浅くなる
  • 胃の不快感、吐き気
  • 手足の冷えや震え、発汗
  • 肩や首の筋肉が緊張する
  • 体の一部がそわそわする、落ち着かない感覚

• 感情的な変化:

  • 漠然とした不安感や焦燥感が高まる
  • イライラする、落ち着きがなくなる
  • 理由もなく悲しくなる
  • 強い緊張感に襲われる

• 思考の変化:

  • 過去のつらい出来事に関連する考えやイメージがふと頭をよぎる
  • ネガティブな思考が増える
  • 集中力が低下する、上の空になる

• 感覚的な変化:

  • 特定の音や匂いが急に気になり始める
  • 周囲の景色が歪んで見えるような感覚

これらのサインは非常に微妙なこともあり、普段は意識していないと見過ごしてしまいがちです。しかし、自分の予兆のパターンを知ることは、フラッシュバックへの対処において重要な手がかりとなります。

自分の予兆に気づくための「観察練習」

自分の予兆に気づくためには、日々の心身の状態に意識を向ける「観察練習」が役立ちます。難しく考える必要はありません。

1. 落ち着いている時の自分を知る: フラッシュバックが起きていない、比較的落ち着いている時に、自分の心身がどのような状態にあるか意識してみましょう。呼吸の深さ、体のどこかに力が入っていないか、気持ちは穏やかかなどを観察します。これは、「普段の状態」を知ることで、変化に気づきやすくするためです。

2. 波が来た時、あるいは来た後に振り返る: フラッシュバックの波が来そうだと感じた時、あるいは波が去った後に、その直前や最中にどのような心身の変化があったか振り返ってみましょう。 「そういえば、あの時、急に息苦しくなったな」「あの考えが頭をよぎった後に、動悸が始まったな」といったように、小さなサインを思い出してみます。

3. 「気づき」を記録する（簡単なメモで十分です）: もし可能であれば、気づいた予兆を簡単にメモしてみるのも良い方法です。特別なノートを用意する必要はありません。手帳の余白や、使い慣れたメモ用紙に、日付と「予兆のようなもの（例：胃のあたりが重い感じ、急に不安になった）」といったように、箇条書きで記録します。これは、自分の予兆のパターンを客観的に捉え、理解を深める助けになります。新しい技術が苦手な方も、紙とペンであれば抵抗なく試せるかもしれません。

この観察練習は、自分を責めるためのものではありません。「また気づけなかった」と落ち込む必要は全くありません。ただ、好奇心を持って「自分の心や体は、どんなサインを送っているのかな？」という気持ちで見てみることが大切です。

予兆を感じた時にできる「穏やかな備え」

もし予兆に気づくことができたら、それは波が大きくなる前に、自分自身を助けるチャンスです。予兆を感じた時にできる「穏やかな備え」はいくつかあります。

• 呼吸を意識する: 息苦しさを感じたら、ゆっくりと息を吐くことから始めます。吸う息よりも吐く息を長くすることを意識し、腹式呼吸を試みます。お腹に手を当てて、息を吸う時にお腹が膨らみ、吐く時にお腹がへこむのを感じてみましょう。数回繰り返すだけでも、心拍数が落ち着き、リラックス効果が期待できます。

• 体の感覚に注意を向ける: 体の中で「今ここ」にある感覚に意識を向けます。例えば、足の裏が床や地面についている感覚、椅子に座っているならお尻が座面に触れている感覚などです。体の安定した部分に意識を集中させることで、過去の感覚から現在の感覚へと意識を切り替える助けになります。

• 安全な場所を心に描く、または物理的に作る: 過去のつらい記憶から距離を置くために、自分が心の中で最も安心できる場所（風景、部屋など）を具体的に想像します。あるいは、実際に落ち着ける部屋に移動したり、静かな場所に身を置いたりすることも有効です。

• 心地よいものに触れる: 手触りの良いブランケット、お気に入りのアクセサリー、安心する香りのものなど、五感を心地よく刺激するものに触れることも、意識を「今ここ」に戻し、落ち着きを取り戻す助けになります。

予兆に気づき、これらの備えを行うことは、フラッシュバックを完全に止めることを保証するものではありません。しかし、波の大きさや持続時間を穏やかにすること、そして何より「自分には、この波に備えるための行動ができる」という感覚を取り戻すことにつながります。

予兆への向き合い方：長期的な視点で

予兆に気づく練習は、自分自身の心身をより深く理解するための継続的なプロセスです。すぐに全ての予兆に気づけるようにならなくても、全く問題ありません。少しずつ、自分のパターンを知っていくことが大切です。

この練習を通じて得られる「気づき」は、もし専門家への相談を検討する際に、ご自身の状況を伝える上での具体的な情報にもなり得ます。専門家は、あなたの予兆のパターンや、それに対してどのような対処法が効果的かなど、一緒に探る手助けをしてくれるでしょう。

長年のフラッシュバックと向き合う道のりは、時に困難を感じることもあります。しかし、予兆に気づき、穏やかに備えるという小さな一歩を踏み出すことは、ご自身を労り、未来への希望を育むことにつながります。焦らず、ご自身のペースで、この観察練習に取り組んでみてください。