長年のフラッシュバックに悩む方へ:『思考の癖』と上手に付き合い穏やかさを育むヒント
長年にわたりフラッシュバックの症状に悩まされている方は少なくないと感じています。様々な対処法を試しても、なかなか効果を実感できなかったり、症状が繰り返されたりすることに、もどかしさを感じている方もいらっしゃるかもしれません。
フラッシュバックは、過去のつらい出来事が鮮明に、あたかも今起きているかのように蘇る現象です。これには脳の記憶処理のメカニズムが関係していると考えられています。しかし、フラッシュバックが起きやすい背景には、単に過去の記憶だけでなく、現在私たちが世界や自分自身についてどのように考えているか、といった「思考の癖」が影響している場合があることに気づくことも大切です。
この記事では、フラッシュバックと私たちの考え方の関係について、そして長年の悩みと向き合う中で、少しずつ穏やかさを取り戻していくための一つのヒントとして、『思考の癖』に気づき、それと上手に付き合っていくための考え方と具体的な練習についてお伝えします。
フラッシュバックと私たちの『思考の癖』の関係
フラッシュバックは、特定の出来事や状況(トリガー)によって引き起こされることが多いですが、同じトリガーに触れても、フラッシュバックが起きる時と起きない時があったり、症状の程度が異なったりすることがあります。これには、その時の心身の状態だけでなく、私たちがその瞬間、あるいは日頃から持っている「考え方のパターン」、いわゆる「思考の癖」が影響している可能性が指摘されています。
例えば、過去の出来事に対して「すべて自分のせいだ」と強く責める考え方をする癖があったり、「これからまた大変なことが起きるに違いない」と常に悪い方向に考えてしまう癖があったりする場合、こうした思考パターンが、過去のつらい記憶と結びつきやすく、フラッシュバックを誘発したり、その強度を増幅させたりすることが考えられます。
私たちが無意識のうちに持っているこれらの思考の癖は、長年の経験や信念に基づいて形成されるため、自分ではなかなか気づきにくいものです。しかし、これらの思考パターンがフラッシュバックとどのように関連しているかを知ることは、新たな対処の糸口を見つけることにつながる可能性があります。
あなたの『思考の癖』に気づくためのヒント
自分の思考の癖に気づくことは、フラッシュバックとの付き合い方を変える第一歩です。具体的にどのような思考パターンがフラッシュバックと関連しやすいかを知り、それを日常生活の中で意識してみましょう。
いくつか例を挙げます。
- 「〜すべき」「〜ねばならない」という強い考え: 過去の出来事に対して「あの時自分はこうすべきだった」と強く思ったり、現在の自分や状況に対して理想と現実のギャップを感じたりする考え方。
- 「すべてかゼロか」といった極端な考え: 成功か失敗か、善か悪か、といった白黒思考。中間がなく、少しでも望ましくないことがあると全てがダメだと捉えてしまう考え方。
- 「どうせうまくいかないだろう」といった決めつけ: 根拠が曖昧なのに、悪い結果になると決めつけてしまう考え方。
- 「自分がこう感じるのは、相手がそう思っているからだ」といった心の読みすぎ: 相手の気持ちや考えが分からないのに、「きっと自分は嫌われている」「ばかにされているに違いない」などと決めつけてしまう考え方。
- 過去の出来事の原因を自分にだけ求める考え方: 実際には様々な要因が絡み合っている出来事でも、原因を自分一人のせいにしてしまう考え方。
これらの例はあくまで一部です。大切なのは、自分自身の「考え方のパターン」に気づくことです。
具体的な練習として、フラッシュバックが起きやすい時や、心がざわつくような出来事があった時に、「今、自分はどんなことを考えているだろうか?」と少し立ち止まって、心に浮かんだ考えを観察してみることを試みてください。可能であれば、簡単なメモを取るのも良いでしょう。
例: * 出来事: テレビで特定のニュースを見た * その時に浮かんだ考え: 「やっぱり自分はダメな人間だ」「これからもっとひどくなるんじゃないか」 * フラッシュバックの有無や程度: 少し胸が苦しくなり、当時の場面が頭をよぎった
このように記録を続けることで、特定の考え方のパターンが、フラッシュバックと関連している可能性が見えてくることがあります。これは、自分を責めるためのものではなく、あくまで「気づき」を得るための優しい観察です。
『思考の癖』と上手に付き合う実践的なヒント
自分の思考の癖に気づいたら、次はそれとどのように付き合っていくかを考えます。すぐに思考パターンを変えるのは難しいかもしれません。まずは、心に浮かんだ考えに「気づく」ことから始め、少しずつ距離を取る練習をしてみましょう。
1. 考えと事実を区別する
心に浮かんだ考えは、必ずしも事実とは限りません。「自分はダメな人間だ」という考えが浮かんだとしても、それは「自分がそう考えている」という心の状態であり、客観的な事実とは異なる場合があります。
考えが浮かんだ時に、「これは事実だろうか?それとも単に自分がそう考えているだけだろうか?」と問いかけてみる練習をします。すぐに答えが出なくても構いません。この問いかけ自体が、考えと自分自身との間にスペースを作る助けになります。
2. 別の視点を探してみる
一つの考え方に固執せず、別の可能性や視点を探してみる練習です。例えば、「すべて自分のせいだ」という考えが浮かんだ時に、「本当に自分だけの責任だろうか?」「他の要因はなかっただろうか?」「もし親しい人が同じ状況だったら、自分はどう声をかけるだろうか?」などと考えてみます。
すぐに別の視点が見つからなくても、探し求めてみるという姿勢が、凝り固まった考え方を少しずつ柔らかくしていく可能性があります。
3. 考えを「ただの考え」として受け流す練習
心に浮かんだ考えを、良い悪いの判断をせず、まるで雲が空を流れていくように、ただ観察して受け流す練習です。これはマインドフルネスと呼ばれるアプローチの一つでもあります。
椅子に座って、自分の呼吸に注意を向けます。すると、色々な考えが浮かんできますが、それらを評価したり、深入りしたりせず、「あ、こんな考えが浮かんだな」と気づくだけにして、また呼吸に注意を戻します。最初は難しいと感じるかもしれませんが、続けることで、考えに振り回されにくくなる可能性があります。
これらの練習は、すぐに劇的な効果をもたらすものではないかもしれません。長年の習慣を変えるには時間と根気が必要ですが、小さな一歩からでも始めることに意味があります。完璧を目指す必要はありません。できた時に自分を褒めてあげることも大切です。
まとめ:穏やかさを育むために
フラッシュバックはつらい経験であり、その症状は心身に大きな負担をかけます。しかし、フラッシュバックのメカニズムを理解し、そして自分自身の「思考の癖」がそれにどのように影響している可能性があるかを知ることは、長年の悩みに対処するための新しい視点を与えてくれます。
自分の思考パターンに気づき、それと上手に付き合う練習は、すぐに効果を感じられない場合もあるでしょう。ですが、これらの練習を通じて、心に浮かぶ考えに振り回されにくくなり、少しずつ心の穏やかさを育んでいくことができるかもしれません。
もし、これらのヒントを試しても症状の改善が見られない場合や、一人で取り組むのが難しいと感じる場合は、専門家(精神科医、心理士など)に相談することも大切な選択肢です。専門家は、あなたの状況に合わせて、より適切なアドバイスや治療法を提供してくれます。
この記事が、長年のフラッシュバックと向き合う皆様にとって、少しでも心の負担を減らし、穏やかな日々を取り戻すための一助となれば幸いです。焦らず、ご自身のペースで、一歩ずつ進んでいきましょう。