長年のフラッシュバックに悩む方へ:自宅で試せる身体感覚を使った新しい対処法
長年のフラッシュバックと向き合う皆様へ
長年にわたりフラッシュバックの症状に悩まされている方もいらっしゃるかと存じます。過去のつらい記憶が鮮明に蘇り、まるでその場にいるかのような感覚に襲われることは、日常生活に大きな影響を与えかねません。これまで様々な対処法を試されても、なかなか効果を実感できず、諦めや疲労を感じていらっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、一般的な対処法とは少し異なる視点から、フラッシュバックへのアプローチ方法をご紹介します。特に、「身体感覚」に焦点を当てた自宅で試せる方法について解説いたします。
これまでの対処法が効果を感じにくかった理由とは
フラッシュバックは単に過去の出来事を「思い出す」こととは異なります。それは、過去の出来事に関連する感覚、感情、身体の反応が、まるで今ここで起きているかのように鮮明に蘇る現象です。私たちの脳は、過去の強いストレス体験を安全に処理しきれなかった場合に、その記憶を通常の記憶とは異なる形で保持することがあります。そして、特定のきっかけ(トリガー)によって、その未処理の記憶が呼び起こされ、当時の強い感情や身体感覚が再体験されてしまうのです。
これまでの対処法の中には、思考を切り替えたり、感情をコントロールしようとしたりするものがあります。しかし、フラッシュバックが身体の反応と強く結びついている場合、頭の中で考えたり感情だけを抑えようとしたりするアプローチだけでは、身体が感じている強い感覚に対応しきれないことがあります。例えるなら、身体は警報を鳴らしているのに、頭だけで「大丈夫だ」と言い聞かせているような状態かもしれません。
フラッシュバックに「身体」でアプローチする視点
近年、トラウマケアの分野では、フラッシュバックのような症状に対して、身体の反応や感覚に意識を向けることの重要性が注目されています。これは「身体感覚(ソマティック)」へのアプローチとも呼ばれます。
フラッシュバック中は、過去の出来事に関連する強い身体感覚(例:心臓がドキドキする、息苦しい、体が固まる、震えるなど)が現れることがよくあります。これらの感覚は、過去の危険な状況で身体が反応したパターンが再現されていると考えられます。
身体感覚を使った対処法は、これらの強い過去の感覚から意識をそらし、今の安全な瞬間の身体感覚に意識を向けることを目指します。これにより、脳と身体に「今は安全である」という情報を伝え、フラッシュバック中の過剰な反応を落ち着かせる助けとなる可能性があります。
自宅で試せる具体的な身体感覚を使った対処法
ここでは、ご自宅で安全に、ご自身のペースで試せる具体的な方法をいくつかご紹介します。
1. グラウンディング(接地)
これは、意識を「今、ここ」にある身体の感覚にしっかりと向ける方法です。
- 椅子に座っている場合:足の裏が床に触れている感覚、お尻が椅子に触れている感覚に注意を向けてみてください。足の裏全体の重みや、椅子と体の接触面の感覚を丁寧に感じてみます。
- 立っている場合:足の裏が地面や床に触れている感覚に意識を向けます。地面からの支えや、足の裏の皮膚の感覚を感じてみてください。
安全な「今」に意識を戻すための基本的な方法です。
2. 安全な場所の感覚
ご自身が最も安心できると感じる場所(部屋の特定の場所、お気に入りの椅子など)で行うのがおすすめです。
- その場所に座ったり立ったりしながら、体が触れているものの感覚に注意を向けます。例えば、椅子の背もたれに背中が触れている感覚、服が肌に触れている感覚、床の感触などです。
- 心地よいと感じる毛布やクッションなどがあれば、それに触れる感覚、温かさや柔らかさに意識を向けてみるのも良いでしょう。
安全で心地よい身体感覚に意識を向けることで、過去の不快な感覚から距離を置く助けになります。
3. 今の呼吸に静かに注意を向ける
深く呼吸しようと努力するのではなく、今の呼吸に静かに注意を向けます。
- 息が入ってくる時、出ていく時の、お腹や胸の動き、鼻を通る空気の感覚などを観察します。
- 呼吸をコントロールしようとせず、ただ「見守る」ように意識を向けます。
呼吸は常に「今、ここ」で行われています。呼吸に意識を向けることは、過去の出来事から意識を現在の瞬間に戻す手助けとなります。
4. 穏やかな体の動きに注意を向ける
安全な範囲で、ゆっくりと穏やかな体の動きを行い、その感覚に注意を向けます。
- ゆっくりと首を左右に倒してみる。
- ゆっくりと肩を回してみる。
- 手や指をゆっくりと開いたり閉じたりしてみる。
大切なのは、大きな動きをするのではなく、ご自身の体にとって安全で心地よいと感じる小さな動きを選び、その動きに伴う体の感覚(筋肉の伸び、関節の動きなど)に意識を向けることです。無理な動きは避けましょう。
実践にあたっての注意点
これらの方法は、効果をすぐに実感できるとは限りません。焦らず、ご自身のペースで、安全な環境で少しずつ試してみてください。
フラッシュバック中にこれらの方法を試すのが難しい場合は、症状が落ち着いている時に練習しておくことも有効です。継続することで、いざという時に活用しやすくなります。
また、これらの方法も万能ではありません。症状が非常につらい場合や、日常生活に支障が出ている場合は、専門家(トラウマケアを専門とする医師や心理士など)に相談することも大切な選択肢です。専門家への相談は決して敷居が高いばかりではなく、適切なサポートを受けることで、よりご自身に合った、効果的な回復への道筋を見つけることができるかもしれません。
まとめ
長年のフラッシュバックに悩む皆様にとって、既存の対処法に加えて、身体感覚に焦点を当てた新しいアプローチが、症状との向き合い方を変える一助となる可能性があります。
今回ご紹介したグラウンディングや安全な場所の感覚への注意、呼吸や穏やかな動きへの意識は、自宅で簡単に試せる方法です。すぐに効果が出なくても、焦らずご自身のペースで続けてみてください。
そして、もしこれらの方法でも改善が見られない場合や、専門家のサポートが必要だと感じた場合は、一人で抱え込まずに相談を検討することも、大切なステップです。
希望を失わず、ご自身を労りながら、一歩ずつフラッシュバックとのより良い付き合い方を見つけていかれることを願っております。